約10年前。藤岡は、新車のシフトレバー開発・生産立ち上げに携わった。2世代前のレガシィだ。6速マニュアルに防振構造を入れ込んだ初めての型。レバーの途中にゴムを入れ、トランスミッションからの振動を手に伝えないようにするプロジェクトだ。「目的は操作感の向上です。当時、5速の防振構造はありましたが、6速は全く初めての開発で、これまでの市場にないモノを形にする大変さを経験しました」と振り返る。今あるモノでなく、世の中にない新しいモノをつくる。開発業務は、顧客が要求する性能や条件に応じ、「どんな構造にしたら実現できるか」を考えていく仕事だ。「開発の過程で少しずつ形になっていくのは楽しい。けれど、決してラクではありません」。
藤岡が言うように、今までにないモノをつくりあげることは簡単ではない。6速防振構造の開発でも問題は起こった。ようやく形にしたレバーの検証実験中のことだ。「ある朝見たら1個だけ変な動きをしていたんです」。そして、プロジェクトチームのメンバーが言った。「下の方で折れたぞ」。「そろそろ完成というタイミングだったのでショックだったし、焦りました」と藤岡。すぐに原因を究明し再検討。構造を立て直して各種の実験をクリアし、製品化に成功した。「難しい開発だっただけに、製品になっとときは感動しました」。レバーは直接手で動かす部位。何よりも嬉しかったのは、「自動車雑誌で『シフトフィーリンが良い』と評価されたこと」だ。
部品開発は、強度や重さ、コストなどを練りに練って形を決めていく。それは、生産プロセスまで考えた仕事になる。6速防振構造でも、開発段階から現場の意見を吸い取り、生産ラインやサプライヤーと調整を重ねた。「開発・設計というと図面を描いているイメージですが、図面は最後の仕上げ」。多角的な検証実験を重ね、最終的に形になったもモノを図面におこして量産化につなげる。さまざまな課題を乗り越えなければいけない仕事だが、藤岡は思う。「世界中で活躍しているクルマに付いた部品を『これは自分が設計した』と言えるのは誇らしいこと」。もっと安全に、もっと快適に。「これからも、ペダルなら千代田、レバーは千代田といわれる仕事を目指していきます」。藤岡の挑戦は、続いていく。
技術部 開発課
第一設計係
藤岡 洋二